適地・小諸で香り豊かなソーヴィニヨン・ブランをつくる
マンズワインの取り組み

豊かなアロマと爽やかな酸味が魅力のソーヴィニヨン・ブラン。
「香りのないソーヴィニヨン・ブランに意味はない」と思うほど、香りはとても重要だと考えています。
ソーヴィニヨン・ブランでワインをつくる一番の面白さは、この品種独特の香りを表現することだと思います。しかし、多くのエリアで香り・酸・糖のピークのタイミングがバラバラになってしまうため、香り豊かで素晴らしいワインをつくることが非常に難しい品種の一つなのです。
ところが、ここ小諸は永年の取り組みの経験から香り・酸・糖がピークを同時に迎えることが多く、世界的に見てもソーヴィニヨン・ブランの適地ではないかと考えています。是非、「ソラリス 千曲川 ソーヴィニヨン・ブラン」から日本の、小諸の、この土地のソーヴィニヨン・ブランの香りを体験していただきたいと願っています。
小諸ワイナリー 栽培・醸造責任者
西畑 徹平
ソーヴィニヨン・ブラン特有の香りは、グレープフルーツやツゲのようなとても面白い特徴香を持っています。実はこの香りはぶどうの果汁の状態では香らないのです。チオール化合物と呼ばれるもののいくつかの成分がこの特徴香を持っており、発酵することで初めて香りとして現れます。
人間の唾液に含まれる酵素も同様の働きをすることから、収穫時期には実際にぶどうを口に含んで品質を確認して収穫日を決めています。
また栽培では、ぶどうの収穫の一般的な指標である糖度と酸度の熟度だけを管理してしまうと、重要な香りに繋がる成分が減少してしまう可能性もあります。かといって香りを重視して早期収穫してしまうと、酸味が強い、味のバランスが取れていないワインになってしまうのです。
このようにとても面白く、とても難しい香りを大切に育てることにマンズワインは永年取り組んでいます。
マンズワインでは、「ソラリス」シリーズのラインナップに魅力的な個性をもったソーヴィニヨン・ブランを加えたいと考え、2005年に小諸市大里地区、ワイナリーの南側に隣接した畑で栽培を始めました。
当初は最大の魅力である香りを十分に出すことができませんでしたが、経験を積み重ねることで収穫時期の見極めがつくようになり、早朝収穫を導入する等、研究報告を参考に様々な試行錯誤を重ねてきました。そうして特徴がはっきり出たワインが初めて出来た2010ヴィンテージから「ソラリス 信州 ソーヴィニヨン・ブラン」としてリリースしました。
2016年には小諸の別のエリアに畑を拡張。2019年は、異なる個性をもったこの区画のぶどうが入る初めてのヴィンテージとなりました。
栽培においてはその香り成分が出来るだけ多い状態で収穫できるように取り組んでいます。その一つとして、ソーヴィニヨン・ブランの特徴香であるチオール化合物は、銅と結合すると無臭化してしまうので、銅を含むボルドー液の使用を制限しています。
また、2019年からは除葉をせずに栽培しています。除葉は主にぶどうの房周りの風通しを良くして、病気にかかりにくくする目的で行われます。除葉をしないということは、多少なりとも病気にかかるリスクが増えるとも考えられます。しかし、リスクをとってまでもチャレンジをするには理由があります。
除葉をしないと、ぶどうの房に日光が直接あたらないので、ぶどうの酸が落ちるスピードが遅くなり、また糖度も時間をかけて上がり、ゆっくり成熟していきます。香り成分もゆっくりピークを迎えるので、収穫時期は除葉をしていた時よりも遅れます。結果、より高いレベルで香り、酸、糖のバランスがとれたぶどうが収穫でき、ワインの品質を確実に向上することができたのです。
半世紀以上前の先人たちから伝わる「リスクをとってもチャレンジする」徹底した取り組みは、ソラリス品質向上の要諦であり、脈々と引き継がれるマンズワインのDNAとも言えます。
収穫はワインの香りが最もピークに達するタイミングを狙います。ぶどうの香りが一日の中で早朝にピークを迎えるソーヴィニヨン・ブランの生理的特徴に合わせ、6時頃からスタートします。早朝の小諸はとても冷涼でぶどうに触れる手まで冷えてきます。
ソラリスでは、ナイトハーベストといった暗いうちの収穫を実施していません。これは、収穫段階で健全なぶどうのみを厳しく選別するためです。カビや病気の実はもちろん、一見健全そうでも茎が枯れて養分が十分にいきわたっていない実等も排除します。一房一房注意深くチェックをして完熟したぶどうのみを収穫していきます。
ソーヴィニヨン・ブランの収穫を日の出とともに行うのはこの理由からです。収穫をしたぶどうはすぐに醸造所へ運ばれていきます。
ソーヴィニヨン・ブランの香り成分は、特に酸化に弱く、一度酸化してしまうと香りが戻ることはありません。そのため、いかに酸化させないか、仕込みからびん詰めまで細心の注意を払います。
酸化の原因物質の一つにポリフェノールがあります。ぶどうは傷つくと傷口からポリフェノールが出てきてしまい、酸化が進んでしまいます。(果物が傷つくと茶色に変色し風味が落ちてしまう現象)。そのため、仕込みはぶどうを房ごと仕込む「ホールバンチプレス※1」を採用しています。この方法は房のまま搾汁するため、ぶどうを傷つけず、また極力酸素に触れない状態の果汁を得ることができます。
「香り成分は皮にあるからスキンコンタクト※2をしたほうが良いのでは?」と専門的なご質問をいただくことがあります。栽培・醸造責任者の西畑は「確かにスキンコンタクトをすると香り成分が増えますが、一方でポリフェノールも増えることで香り成分が失われもします。ソーヴィニヨン・ブランで実施していない理由は、ボルドー大学で、この二つの要因をトータルで見ると香りが減ってしまうと学んだからです」とコメントしています。
※1 ホールバンチプレス
ぶどうを除梗せず、房(=bunch)のまま搾汁する方法です。梗(こう。葡萄の粒がついている小さな枝)からぶどうの粒を分離する「除梗」という作業は、果汁を搾りやすくしたり、梗の持つ不快な香りや味がワインにつくことを避けるため行われます。しかし、作業の中でぶどうが傷つき酸化してしまうデメリットもあります。ホールバンチプレスでは、この除梗をしないので、搾る直前までぶどうを傷つけることなく、酸化の少ない果汁でワインを仕込むことができます。
※2 スキンコンタクト
「果皮との接触」という意味で、マセラシオン・リミテとも呼ばれる仕込み方法です。ぶどうの皮に多く含まれる香り成分をより抽出するために、ぶどうを破砕した後、短時間(場合によって数時間から数日間)果汁と果皮を浸漬した後に搾汁する方法。
2019年ヴィンテージから、従来からのグレープフルーツのような柑橘系の香りが特徴的な天神地区に、新たにトロピカルフルーツ系の香りが特徴の西原地区のぶどうが加わりました。2016年に植え付けたこの区画では平垣根方式を採用しているため、より日光が当たることからこの特徴につながっているのではないかと考えています。
新たな香りが加わり複雑さを増したことで、さらに香り高いワインに仕上がりました。
栽培・醸造責任者の西畑は「ここ小諸は世界的に見てもソーヴィニヨン・ブランの適地だと思う」と言います。
西畑によると「まずは小諸の気象が要因と考えられます。暑いエリアだと香りのピークが低くなり、最高のタイミングでの収穫がどうしても難しくなります。小諸は標高600m以上の冷涼な土地なので、香りのピークが最大化したタイミングでの収穫が行いやすいと思います。
また、ソーヴィニヨン・ブランは酸、糖に加えて香りも含めた3つの要素それぞれが調和した時に収穫することが理想ですが、この品種に適さないエリアではそれぞれのタイミングがバラバラになることが多いと思います。しかし、ここ小諸では3つの要素が調和したタイミングで収穫できることが多くなっていて、それはおそらく小諸の気象条件や土壌等々、様々な要素が重なってこのような適地となっていると考えています。いつか、世界的銘醸地として小諸が知られるようになるかもしれません。」
2023年の夏は小諸も記録的な暑さでした。地元の方が「生まれてから70年小諸に住んでいて、こんな暑さは初めて」とおっしゃっていたくらいです。そんな年のぶどうは酸の落ちが早く、ワインは一体どんな味になってしまうのか?と不安に思うこともありました。しかし、実際に出来上がったワインは、不思議なことに分析データとは違って、これまで同様の冷涼な小諸らしいソーヴィニヨン・ブランの味わいとなりました。こんなことからも、小諸の土地とソーヴィニヨン・ブランの相性の良さがあるように思います。
これからがますます楽しみなソーヴィニヨン・ブランです。